夜明けと共に

何が見えた?

殺人犯

「死ね」

 その言葉は唐突だった。何の前触れも無く降りかかってきた言葉。

「え……え?」

「あんたなんて死ねばいいのよ!!」

 そう叫んだ母親は、今までよりも醜く歪んでいて。

 

 ――化け物だ。

 

 そう感じた。殺気で全身に鳥肌が立つ。今までのどうでも良い、死んでもいいや。なんて感情が一気に消え去って。

 母親“ダッタモノ”が、台所から取って来たのであろう包丁を握り締めて近づいてくる。

 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だこんな物に殺されるなんて嫌だ。生きたいかと訊かれれば、躊躇無く死にたいと答えるだろう。でも嫌だ。こいつだけには。憎い。自分を不幸にしたこいつが憎い。どうして自分だけがこんな思いをしないといけないんだ。そうだ、全部こいつのせいじゃないか。憎い。こいつが、父が、兄が、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……!

「いやああああああああああああああああ!!」

 怪物が、包丁を振り上げた。

 

 

 

 

 

 気が付いたら目の前で母親が死んでいた。胸元には沢山の刺し傷。

 これは自分がやったのか?しばらく呆然としていると、玄関のドアが開く音がした。

 怖気がする。嫌だ。

 グッと拳を握り締めると違和感があった。嫌な予感しかしなかった。恐る恐る、視線を手元へ下げる。

「おい!あいつはどこ行った!!」

 怒鳴りながら近づいてくる父親。その声は酷く現実味が無くて。

「ひっ……」

 父親が扉を開けるのと、血の滴る包丁を見つけるのはほぼ同時だった。引きつった声はどちらのものか。そんな事はどうでも良い。

 ……ばれた。殺される。父に殺される。殺される? 殺されるのか? そうだ、ならいっそ。

「死ね」

 殺せ。

 

 

 

 自分は何がしたかったんだろう。生きていても意味なんてないのに。

 あの後、父親も兄も殺してしまった。憎かった。殺しても何も無いというのに。何も変わらないのに。

「殺人犯め」

 誰かの声が聞こえた。そう、自分は殺人犯だ。ここで生きる事はできない。身寄りも無い。

 自然と膝をついていた。何故か涙が流れる。今まで涙なんて出なかったのに、全く変な話だ。

 皆が自分を嘲笑う幻聴が聞こえる。嗚呼、もう疲れたなぁ、なんて自嘲気味に笑いながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分に刃を突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/どうして生きたいなんて、思ってしまったんだろう

______

思い切り色々吹っ飛ばしたけど、書きたい部分を書けて大満足です。

この後名無つ星宅のトルちゃんに見つけられて命拾いしちゃいます。

そっから衰に切り替わります。